ワークショップ設計で最初に決めるべきは、内容ではなく2つの軸です。1つは「どのベクトルで進むか」(理想を可視化するA系か、痛みに降りるB系か)、もう1つは「体を通すか」です。この2軸は恣意的な分類ではなく、体系の中核構造から演繹されています。この記事では、その2軸と、具体的な設計法則を解説します。

もう一つ、設計の成否を分ける一文があります。最初の具体のわかりやすさが、ワークの価値を決めます。 抽象から入るワークは、必ず失敗します。

シリーズ第6章「実装と資源」の記事で、対象は原則18(ワークショップ企画)です。原則17が「場での振る舞い」を扱ったのに対し、この記事は「場の設計」を扱います。


目次

  1. 設計の2軸|A系・B系と体を通すか
  2. よくない例と「資産と呪縛」という視点
  3. 設計法則①〜③|個人グループ・条件変更・具体抽象具体
  4. 設計法則④〜⑦と細かいポイント7つ
  5. 設計チェックリストと今日から試せること
  6. よくある質問
  7. まとめ
  8. 参考文献

1. 設計の2軸|A系・B系と体を通すか

ワークとは、ファシリテーションとコーチングの掛け合わせであり、相手が幸せになるよう導くものです。設計の第一歩は、次の2軸を決めることです。

選択肢
どのベクトルで?(上がるか下がるか) A系(理想を可視化する=Uの谷を上る)/B系(Uの谷を下る=痛みと思い込みに降りる)
どうやって?(体を通すか通さないか) C系のように(知識伝達 → 体現・体感 → 体感に落とす)/体を通さない

組み合わせも可能です。4象限は次のとおりです。

図解
体を通す 体を通さない
A系(上昇) 最高のポーズ、究極系を描く 魔法のステッキ、アクションプラン
B系(下降) セルフコンパッション、動きのワーク ループ描画、不満の列挙、家系図

この2軸は、体系全体の記号体系から直接導かれています。A系/B系は原則8のA・Bと原則4のU理論の下降と上昇に、体を通す/通さないは原則1の知・体・意識に由来します。

図解

ワークショップ設計が体系の思想と一貫していることが、ここで確認できます。別の場所から借りてきた設計論ではなく、同じ構造の別の現れ方です。企画の最初に、次の対応表を使って2つを決めてください。

参加者の状態 選ぶべき軸
疲弊している/自己批判が強い B系 × 体を通す(まず身体から緩める)
方向が見えない A系 × 体を通す(理想を身体で先に作る)
分析力を高めたい B系 × 体を通さない
実行段階にある A系 × 体を通さない(アクションプラン)

原則4の禁止事項③が、ここでも適用されます。B系で降りたら、必ずA系で上げて終わります。


2. よくない例と「資産と呪縛」という視点

いきなり問題から入るワークショップは深まりません。「問題点を出してください」「改善点を出してください」だけで進める設計には、次の3つの理由があります。

# 理由 対応する原則
いきなり問題から入っている。参加者の状態が下がったまま発想させても、萎縮した案しか出ない 原則6の気分一致効果
文脈がない。その土地の歴史も資産も知らないまま問題を挙げても、表面的な列挙になる 原則4:現象には構造がある
身体が動いていない。頭だけで考えるため、理想が生々しくならない 原則2・11

気分一致効果とは、状態が下がっているときには下がった記憶と発想しか出てこないという心理現象のことです。「問題点を出してください」から始めた場は、その時点で天井が決まっています。

改善案の構造

# 手順 対応する原則
1 地元のいいものを全部出す。シェアしてまた出す 原則6.7のポジティブ版分析、原則1の情報空間のクリアリング
2 問題点を全部出す 原則4の表面的な悩み
3 地元の歴史を洗い出す。資料を引っ張り出し、資産と呪縛を明らかにする 原則5.5(家系図の地域版)、原則15、原則8のB
4 流行っているもの、面白そうなものを全部出し、組み合わせる 原則15の進化思考(融合)、原則14の掛け合わせ
5 身体を伸ばし、運動する 原則2・3・11
6 地元の究極系を、最高のポーズで描く 原則8の魔法のステッキ、原則11
7 アクションプランを出して並び替える 原則9-Aのレバレッジポイント、ACTのコミットされた行為
8 誰に持ちかけるか、誰が話に行くかを決める 原則13のβ
図解

順序に注目すると、1で状態を上げてから始め、2〜3で下降(B系)、5で身体を挟んで転換し、6〜8で上昇(A系)へと進む構造になっています。5の「身体を動かす」が下降と上昇の蝶番になっており、原則11(動きとポーズ)の機能そのものです。

資産と呪縛という視点

資産と呪縛とは、地域にも個人と同じように「受け継いだ資源」と「受け継いだ思い込み」があるという見方のことです。原則5.5の多世代伝達を、共同体に適用したものです。

個人(原則5.5) 共同体(原則18)
受け継いだもの① 家族から受け継いだ資源 資産
受け継いだもの② 家族から受け継いだ思い込み 呪縛
分析の道具 家系図(ジェノグラム) 地域の歴史
得られる効果 責める対象がいなくなる 「なぜこうなのか」が構造として見える

地域の停滞は、しばしば「うちの地域は何をやってもダメだ」「よそ者には分からない」といった呪縛によって維持されています。これは原則4の思い込みであり、原則9-Aの最深層(メンタルモデル)にあたり、最も効くレバレッジポイントです。

問い 引き出すもの
「この地域が誇っているものは何ですか」 資産
「この地域で、言ってはいけないことは何ですか」 呪縛
「昔、うまくいったのはいつですか。それはなぜ終わりましたか」 資産と呪縛の両方
「よそから来た人が驚くことは何ですか」 内部では見えない構造

2つ目が最も強力です。原則17の通り、答えを知らない問いである必要があります。


3. 設計法則①〜③|個人グループ・条件変更・具体抽象具体

法則① 個人 → グループ → 個人 → グループ

個人ワークで書く時間を先に取ってからグループシェアに移る設計は、ナレッジの共有と自己効力感を高めます。いきなりグループから始めると、声の大きい人の意見に引きずられる、考える前に発言を求められて出てこない、発言しない人が固定化する、という3つの問題が起きます。

図解

個人ワークで書いたものがあれば「書いたことを読む」という形で発話の敷居が下がり、シェアの後にもう一度個人に戻すことで他者の視点を取り込んだ改訂ができます。ここで原則6.5の代理的経験(他人のやり方を見て「自分にもできる」と思うこと)が働き、自己効力感が上がります。代理的経験は自己効力感の4源泉の第2位で、「自分と近い人」であるほど効くため、同じワークをやっている参加者は最も近い他者です。

法則② 条件変更の法則

条件変更の法則とは、何かを足したり引いたりして現実とは違う理想や最悪を体験させ、気づきを生み出す手法のことです。原則15の進化思考の9つの変異パターンを当てはめると設計しやすくなります。

条件変更の例
変量 「予算が10倍だったら」「1人しかいなかったら」
擬態 「これがディズニーランドだったら」
欠失 「もしこの事業が禁止されたら」「予算がゼロなら」
増殖 「同じものが10個あったら」
転移 「これを高校生向けにしたら」「これを海外でやったら」
交換 「対象者を入れ替えたら」
分離 「これを3つに分けたら」
逆転 「立場を入れ替えたら」「目的を逆にしたら」
融合 「これと〇〇を合わせたら」

原則8の「魔法のステッキ」は、この「欠失」(制約を取り去る)の一形態です。条件変更の法則は、それを9通りに一般化したものと理解できます。

図解

理想だけを描かせると既知の望ましい形が出るため、「最悪」も使ってください。「もし最悪の結果になるとしたら、何が起きているか」という問いは、リスクの可視化だけでなく、本当に守りたいものを浮かび上がらせます。

法則③ 具体 → 抽象 → 具体

この法則は、経験学習の基本形です。具体(手触り)→抽象(気づきとシェア)→具体(振り返りとtodo)という3段階で進めます。

David Kolbの経験学習サイクルとは、具体的経験→内省的観察→抽象的概念化→能動的実験という循環で人が学ぶとするモデルのことです。この法則は、それを実務的に3段階に圧縮したものと読めます。

図解

最初の具体のわかりやすさが、ワークの価値を決めます。 抽象から入るワークは失敗します。

図解

参加者が「何をすればいいか」で詰まった時点で、その先の気づきには到達しません。入口の具体が簡単で、手触りがあって、誰でもできることが、ワークの成否を分けます。

基準 確認方法
簡単か 説明が3文以内で済むか
手触りがあるか 手を動かす(書く、選ぶ、動く)ことが含まれているか
誰でもできるか 前提知識ゼロでもできるか
正解がないか 「間違えたらどうしよう」が生じないか

原則21の「痩せられない、スマホ見過ぎちゃう、上司がうざい、とかなんでもいいですよ」という記述は、まさにこの入口の設計です。


4. 設計法則④〜⑦と細かいポイント7つ

法則④ 深さの法則

情報の整理で終わるワークは記憶に残りません。その人の内面(B)か理想(A)に触れたワークだけが、行動を変えます。判定基準は、ワークの後に参加者が自分の話をしているかどうかで、一般論を話しているなら内面に触れていません。

法則⑤ 可視化の法則

アイデアはできる限り目に見える形で表現します。理由は4つあり、言語化されないまま消えるのを防ぐ、全員が同じものを見ながら議論できる、並べ替え・組み合わせができる(原則15の変異操作)、発言力の差が出にくい(書いたものは全員分が等価に並ぶ)、というものです。口頭の議論では話す量と影響力が比例しますが、付箋に書いたものは誰が書いたかに関わらず等価に並びます。これは原則17の「発言の偏り」への構造的な対処になっています。

法則⑥ ナラティブの法則

何事も文脈を把握しないと、本質を捉えた新しさは出てきません。原則7(ナラティブ)と原則15(歴史的背景)が、ワークショップ設計に適用されたものです。文脈のないアイデア出しは、どこかで見たアイデアの再生産になります。これが第2節の「よくない例」の理由②でした。

法則⑦ 直感がだいたい正しいの法則

理想を描くときは、ロジックより直感を使います。直感は経験に裏打ちされた高速のパターン認識です(Klein)。ただし「理想を描くとき」という限定が付いている点が的確で、発散(理想を描く)では直感、収束(分析・検証)ではロジックを使い分けます。分析や検証の局面では直感は誤りやすいことが知られています(Kahneman & Klein, 2009)。

図解

細かいポイント7つ

ポイント 理由
時間の設計→直感でやらせるところは短く 時間があると考え始めてしまい、直感でなくなる
最初に目的、なぜこのワークが大事かをシェアする 目的が分からないワークには本気になれない(原則6.5の結果期待)
参加者の不安点は事前に潰す 不安があると挑戦的な発想が出ない(原則2の安全な状態)
好きなものは言わせるより、一覧から選ばせる 想起(recall)より再認(recognition)のほうが認知負荷が低く、出やすい
全体像を最初に示す 見通しがあると安心して個々のワークに没入できる
具体例を出す 抽象的な指示は解釈のばらつきを生む。原則6.5の代理的経験にもなる
数字化することで、足りないことを出しやすくなる 「3つ以上」と言われると2つで止まらない。原則5の不満列挙と同じ

特に効果が大きいのは次の3つです。1つ目は、時間を与えることが必ずしも良い結果を生まないという点です。30秒で答えさせると直感が出ますが、5分与えると「正しそうな答え」を構築し始めるため、発散の局面では意図的に時間を切ります。2つ目は「一覧から選ばせる」で、想起は認知負荷が高く出にくいのに対し、再認は認知負荷が低く出やすいという認知心理学の基本原理です。「好きな漫画は?」より「この20作品から3つ選んでください」のほうが、正確で豊かな答えが出ます。3つ目は「数字化する」で、「3つ以上」と指定するだけで2つで止まらなくなります。最初に出るのは既知の答えで、3つ目、4つ目に新しい層が出て、複数並べると共通項が本人に見えます。


5. 設計チェックリストと今日から試せること

設計チェックリスト

企画段階

# 確認事項
1 2軸を決めたか(A系/B系 × 体を通す/通さない)
2 深い目的を、主語=参加者で1行書いたか(原則17)
3 参加者の属性を把握したか(前提知識、利害関係)
4 B系で降りるなら、上げ切る時間を確保したか

構成段階

# 確認事項
5 最初の具体は、説明3文以内で、誰でもできるか
6 個人 → グループ → 個人 → グループの順になっているか
7 文脈(歴史・資産・呪縛)を扱う時間があるか
8 身体を動かす時間があるか(特に下降から上昇への転換点)
9 可視化(書く・貼る・並べる)が含まれているか
10 発散には短い時間、収束には長い時間を配分したか

進行段階

# 確認事項
11 最初に目的と全体像を示したか
12 各ワークで数字を指定したか(「3つ以上」)
13 選ばせるところは一覧を用意したか
14 不安点を事前に潰したか
15 終わりに、内面か理想に触れたかを確認したか

今日から試せること

  1. 次のワークショップで、2軸を先に決める:内容より先に「A系かB系か」「体を通すか通さないか」を決めます。この2つが決まると、内容は自動的に絞られます。
  2. 最初のワークを「説明3文以内」に書き直す:今ある企画の最初のワークを、3文で説明できるまで削ります。削れないなら入口が複雑すぎます。
  3. 「3つ以上」を指定する:どのワークでも数字を指定します。「思いつくだけ」ではなく「3つ以上」にすると、2つで止まらなくなります。

6. よくある質問

参加者が手を動かしてくれません

入口の設計を疑ってください(第3節法則③)。説明が3文以内か、前提知識ゼロでできるか、正解がないかを確認します。特に「正解がないか」が重要で、「間違えたらどうしよう」が生じる課題では手が止まります。「なんでもいいですよ」と具体例を複数出す入口設計が敷居を下げます。そして最初に個人で書く時間を取ってください。いきなり発言を求めると出てきません。

アイデアが表面的なものばかり出ます

3つの可能性があります。文脈がない(法則⑥)と、歴史や資産を扱う時間がなく、どこかで見たアイデアの再生産になります。状態が下がっている(第2節の理由①)と、問題から入っていないか確認してください。気分一致効果により、下がった状態からは萎縮した案しか出ません。内面に触れていない(法則④)と、情報の整理で終わっていないか確認します。B(痛み)かA(理想)に触れる設計が必要です。

時間が足りません

削る優先順位は、最優先で残すのが最初の具体(入口)と上げ切る時間、残すのが個人ワークの時間と可視化、削ってよいのが説明・事例の数・収束の精度です。「上げ切る時間」を削るのは最も危険で、B系で降りたまま終わると原則4の禁止事項③に反します。時間が足りないと分かったら、降りる深さを浅くしてください。

身体を動かすワークに、抵抗が強いです

原則11の実務注意がそのまま適用されます。ファシリテーターが先に遠慮なくやること(代理的経験。中途半端にやると「恥ずかしいこと」だと伝わる)、場の安全を先に作ること(安心がない状態でやると恥の体験になり逆効果)、逃げ道を用意すること(「イメージだけでも可」)が対処になります。「めちゃくちゃ身体を伸ばしましょう」のようにストレッチから入ると抵抗が下がります。

グループの人数は何人がよいですか

目的によります。2人(ペア)は全員が話し、深い話が出やすく発言しない人が生じません。3〜4人は多様な視点が入り、全員が話せる上限です。5〜6人は発言しない人が出始め、7人以上では実質的に「聞く人」が生まれます。迷ったらペアかトリオにしてください。原則17の通り、全体では話せなくてもペアなら話せる人がいます。

「資産と呪縛」を聞くと、場が重くなりませんか

順序を守れば、なりません。第2節の改善案では、1(いいもの)→2(問題点)→3(歴史・資産と呪縛)の順で、いいものを先に出しています。これは気分一致効果への対処であると同時に、「この場では良いことも語ってよい」という枠を先に作る設計です。5(身体を動かす)で転換し、6(究極系)で上げ切ります。重さは、上げ切るための燃料です。

オンラインのワークショップでも同じですか

原理は同じですが、3点調整が必要です。可視化(法則⑤)はオンラインホワイトボードを使い、操作の説明時間を見込みます。個人ワーク(法則①)はカメラオフの時間を明示的に作ります。見られながら書くのは負荷が高いためです。身体を動かすワークは上半身中心に設計し、ファシリテーターが一緒にやります。ブレイクアウトルームはペアかトリオにしてください。オンラインでは対面より発言の敷居が高くなります。


7. まとめ

  • 設計の第一歩は2軸です。A系/B系×体を通す/通さないで、体系の中核構造から演繹されています。
  • よくない例の理由は、問題から入る・文脈がない・身体が動いていない、の3つです。
  • 「資産と呪縛」は、地域にも受け継いだ資源と思い込みがあるという原則5.5の共同体版です。
  • 法則①は個人→グループ→個人→グループで、全員が自分の答えを持ってからグループへ進みます。
  • 法則②の条件変更は、進化思考の9パターンで一般化できます。魔法のステッキは「欠失」の一形態です。
  • 法則③は具体→抽象→具体です。最初の具体のわかりやすさが、ワークの価値を決めます。
  • 法則④〜⑦では、内面か理想に触れたワークだけが行動を変え、可視化は発言力の差を消し、文脈のないアイデア出しは既知の再生産になり、発散には直感、収束にはロジックを使います。
  • 細かいポイントとして、直感は時間を短く、一覧から選ばせる(再認は想起より出やすい)、数字を指定する、が効果的です。

8. 参考文献


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